世の中の「医療DX」に現場が抱く、最大の違和感
最近、展示会やWebセミナーでよく耳にする「処方箋の自動取り込み」という言葉。
現場の薬剤師なら、一度はこうツッコミを入れたことがあるはずです。
「いやいや、それ『QRコードが綺麗に印刷された処方箋』か『最初から電子処方箋』の話やろ?」と。
現場に毎日持ち込まれる処方箋の現実は違います。
地方のクリニックから届く、QRコードすらついていない昔ながらの紙処方箋。
文字のかすれた処方箋。
手書きのメモが添えられた処方箋。
受付スタッフの手を一番止め、老眼の目をしょぼしょぼさせながらキーボードを叩き、打ち間違い(入力ヒヤリハット)の恐怖と戦っているのは、「QRもデータも何もない、ただの紙処方箋」なのです。
ここを自動化できなければ、本当の業務改善とは言えません。
「何もないなら、現場で作るしかない」。
そう決意してパソコンの前に座り込んだのが、昨夜の始まりでした。
調剤室の深夜捜査線:レセコン連携ツールの深部へ
当薬局で導入している主力レセコンには、外部との通信を仲介する連携モジュール(ここでは仮に「コネクト」と呼びます)が備わっています。
しかし、その内部仕様や連携の細かなルールは一般の薬局には開示されていません。普通なら「メーカーに高額な追加オプションを頼むか、諦めるか」の二者択一です。
そこで今回、私の相棒であるAI「Google Antigravity」と一緒に、調剤室のパソコン内部の調査・解析に乗り出しました。
- ファイル構造・設定の検索・解析
パソコン内から関連するプログラムや構成ファイル(.configや設定ファイル、ディレクトリ構造)を丹念に洗い出し、何がトリガーになって動くのかを解読。
2. 実行状態やプロセスの確認
バックグラウンドでどんなサービスが常駐し、どのポートやフォルダを見張っているのかを追跡。
3. ログと受け入れ口の特定
エラーログの挙動から、「どの形式のファイルを、どういう名前でフォルダに置けば、レセコンが公式データとして認識してくれるのか」のルールを突き止める。
発見した「受け入れ口」と、アトミック投入の壁
深夜2時、老眼鏡を外し、冷えたタリーズのカフェラテを口に含みながら画面を見つめていた時でした。
「……あった。ここや!」
レセコン連携ツールが見張っている、特定の取り込み口(QR取り込み用ディレクトリ)の挙動が完全に浮き彫りになったのです。
しかし、単純にファイルを放り込むだけではダメでした。
ファイル生成の途中でレセコンが読みに行ってしまうと破損エラーになる。
そこで、一時フォルダに完成データを生成してから一瞬でリネーム移動させる「アトミック投入」の仕組みをスクリプトに組み込みました。
これにより、
1. スマホ(LINE)やWeb、カメラで撮影した処方箋画像をOCRとAIで高精度にテキスト解析
2. 薬品マスターデータと照合して処方構造を自動生成
3. 解明したフォーマットに変換し、連携ディレクトリへ「アトミック投入」
という一連のパイプラインが完成したのです。
朝5時、画面に訪れた奇跡
時計の針は、朝の5時を指していました。
机の上には空になったタリーズの缶が2本転がっています。
深夜の調剤室。散らかったデスクと2本のタリーズ缶が戦いの激しさを物語る
テスト用の処方箋データを流し込み、息を止めてレセコンの画面を凝視しました。
キーボードには、指一本触れていません。
……ピロン。
「入った……!!!!!!」
レセコンの「受付トレイ」に、患者情報と薬品データが綺麗に展開され、そのまま処方が着弾したのです。
「受付スタッフが一切キーボードを触ることなく受付トレイに処方が入る完全自動化パイプライン」が稼働した瞬間
受付スタッフが一切キーボードを触ることなく、患者さんの処方がレセコンに整然と並ぶ。
長年、現場で「これがあればどれだけ楽になるか」と夢見ていた光景が、目の前で現実になった瞬間でした。
現場の人間だからこそ、越えられた壁がある
世の中のシステム会社から見れば、私のやっていることは無茶苦茶で、泥臭い素人の足掻きに見えるかもしれません。
でも、「何もない処方箋に一番苦しめられている現場の痛み」を知っているのは、現場にいる私たちだけです。
大手メーカーを批判したいわけでも、既存の仕組みを壊したいわけでもありません。
既存のレセコンの良さを最大限に生かし、メーカーへの敬意を払いつつ、その隙間をAIという最新の道具で優しく埋めてあげる。
これこそが、私が目指している「優しさを仕組み化する薬屋DX」の真髄です。
徹夜明けの重い体で迎えた朝の光の中、心の中だけは、久しぶりに晴れ渡るような爽快感で満たされていました。
さあ、今日も患者さんがやってきます。
キーボードを叩く時間を減らして、そのぶん、目の前の患者さんの目をもっとしっかり見つめて話そうと思います。