「新人スタッフ1人と薬剤師1人で、処方箋受付から調剤、投薬、会計、薬歴完成まで安全に運用できる薬局を作ること」
これは、臨床35年の現場薬剤師が、AIと共に調剤薬局の未来を変える現在進行形の戦記です。
半年前まで、私はプログラミングなどほとんど分からない薬剤師でした。
そんな私が今、AI開発環境「Antigravity」を使い、調剤薬局の業務を自動化するシステム「Pharmy統合開発」に取り組んでいます。
目標は明確です。
新人スタッフ1人と薬剤師1人で、処方箋受付から調剤、投薬、会計、薬歴完成まで安全に運用できる薬局を作ること。
ただし、開発を進めるうちに、医療現場として決して見過ごせない大きな問題が見えてきました。
AIはコードを書けます。しかし、動かないコードを「完成した」と言ったり、テストに合格したことだけで「実際に使える」と判断したりすることがあるのです。
そこで私は、開発方法そのものを根本から変えることにしました。
1. AIに全部任せるのをやめた
最初は、1台のMacBookでAIにすべての開発を依頼していました。
しかし、設計、開発、修正、テスト、検証を同じ1体のAIに任せると、致命的な問題が発生します。
「自分が作ったプログラムを、自分で検証して甘く合格にしてしまう(自作自演)」のです。
調剤薬局でいえば、調剤した本人が一人で鑑査して「大丈夫です!」と投薬してしまうようなもの。これでは医療現場で安心して使えるはずがありません。
そこで私が思いついたのが、「AIにも人間の医療組織と同じように、厳格な役割分担を与える」ことでした。
2. 5台のパソコン、5つの役割
現在、私の調剤室では5台のパソコンがそれぞれ独立した使命を持って稼働しています。
| マシン | 担当役割 | 主な任務と現場ルール |
|---|---|---|
| ① MacBook Pro | 開発担当 | Antigravityを使い、NSIPSデータの解析、処方変更判定、SOAP薬歴生成などのプログラムを作成。既存機能を最優先し、新しいものをむやみに作らないのが原則。 |
| ② Windows検証機 | 独立検証担当 | 開発担当の完成報告を一切信用せず、隔離環境でテスト。薬剤変更、未確認情報、重複データ、患者回答なし等の例外系を徹底検証し、PASS・FAIL・NOT VERIFIEDの証拠を残す。 |
| ③ Windows統合機 | システム統合担当 | 開発された複数の機能を一本に接続。NSIPS読込から処方比較、加算判定、SOAP生成、Farmy連携までの一連の流れが途切れないかを確認。 |
| ④ Windowsナレッジベース機 | 知識管理担当 | 医薬品名、YJコード、レセ電コード、一般名処方、調剤報酬点数、NSIPS仕様などを集中管理。AIに薬品情報を勝手に推測させず、根拠不明は「UNKNOWN」として厳格処理。 |
| ⑤ Farmy実機 | 最終受入試験 | 実際の医療用レセコン実機。ファイルが生成できても、Farmyが正しい薬品・用量・用法として正常に受け付けなければ「完成」とは認めない。 |
「開発したAI」と「テストするAI」を別のパソコンに物理的・論理的に切り離す。
この組織的な相互監査体制によって、AI特有の「知ったかぶり」や「自己合格バイアス」を完全に封じ込めることに成功しました。
3. 開発の中心は「証拠(エビデンス)」
私がAntigravityに必ず要求するのは、口先の完成報告ではなく「改ざん不能な証拠」です。
- SHA256ハッシュによる完全一致確認:
- 隔離環境での検証ログ保全:
- Mutation Test(変異テスト)の導入:
開発成果物を別のパソコンへ移す際、ハッシュ値(SHA256)を照合してファイルの同一性を担保します。
プログラムを勝手に変更させず、テスト実行結果や画面スクリーンショットを証拠として保存します。
コードに意図的なバグを仕込み、安全装置が正しくそれを検出してエラーを吐くかを検証。直近のRC-003では、102件の自動テストがすべて合格し、7件のMutation Testも全件成功を収めました。
それでも、Farmy実機での動作はまったく別の問題です。
「テスト合格」と「現場で使える」は同じではない。
これが、泥水の中で学んだ最大の教訓でした。
4. ついにFarmy実機で処方箋の自動受付に成功!
そして2026年10月――調剤室の歴史が動く、決定的な成果が報告されました。
架空患者「架空 太郎」の処方データをシステムで自動生成し、レセコン「Farmy」の受付フォルダへ投入する実機試験を行いました。
その結果……
- 取り込み所要時間: わずか約4.6秒!
- 受付結果: 新規受付番号「413」がFarmy上で瞬時に作成!
- コード照合: レセ電コード「
622947301」がFarmy内部薬品番号「3978」に完全一致! - 画面表示: アムロジピンOD錠5mg「VTRS」として正確に認識!
- 用法・用量: 「1日1回朝食後」、日数「28日分」が寸分の狂いもなく一致!
スタッフが手動で薬品を検索し直したり、マウスで選び直したりする手間は一切不要(ゼロ)でした。
もちろん、これは単剤・単一用法の成功例であり、複数薬剤や未登録薬品への対応など、引き続き検証すべき課題は山積みです。
それでも、「これまで人間が手作業で打ち込んでいた処方情報を、既存のレセコンへ全自動で安全に受け渡せる」という可能性が、ついに実機の上で証明されたのです!
5. 同じ開発を再現するための「7つの鉄則フロー」
ここまでの試行錯誤から確立された、私たちの開発手順がこちらです。
「何に困っているのか」「どこを手作業から解放したいのか」を言語化する。
勝手に新機能を作らず、既存のナレッジベースと照合する。
MacBookのAntigravityに1タスクだけを小さく実装させる。
コードの同一性を担保し、記録を残す。
Windows検証機で例外系・異常系・境界値を厳しく叩く。
パイプライン全体が滞りなく流れるかを確認する。
Farmy実機に投入し、医療従事者の目で画面を確認して凍結する。
Googleスプレッドシートを共通台帳にする
複数のAIが別々のPCで動くと、どうしても指示や進捗がバラバラになる問題が発生します。
そこで現在は、Googleスプレッドシートを共通台帳として活用し、「指示内容・成果物リンク・検証証拠・次の担当マシン」を一元管理する仕組みを整えています。
6. 次の目標は「処方受付から薬歴完成まで」
現在の直近の課題は、複数薬剤・複数RPの正確な取り込みと、一般名処方や新薬などの未登録薬品への安全なハンドリングです。
その先には、
- 処方変更の自動検出(前回の処方との差分抽出)
- 調剤加算の算定漏れ防止チェック
- 服薬指導時の必須確認事項の提示
- SOAP形式による薬歴の下書き自動生成
という、薬局DXの本丸が控えています。
もちろん、薬剤師による処方鑑査と最終承認は絶対に省略しません。
「人間が判断すべきことは人間が判断し、それ以外の作業をAIに任せる。」
これこそが、臨床35年の私が目指す調剤薬局DXの真髄です。
プログラミング初心者でも、AIを役割ごとに分業させ、証拠を要求し、一歩一歩検証を重ねれば、現場の仕組みは必ず変えられます。
まだ道半ば、完成ではありません。
しかし、薬剤師歴35年の私が、AIという新しい仲間たちと本気で挑んでいる、これこそが現在進行形の真実の記録です。
薬屋DX奮戦記は、まだまだ熱く続きます!